合掌造りで有名で、世界遺産にも登録されている白川郷。
昨年初めて訪れてびっくりしたのですが、外国人だらけで、観光客が集まっているエリアでは日本語があまり聞こえてきませんでした。売店の人に尋ねたところ、日本人観光客は少数派になっているとのこと。
あまりの混雑ぶりに、村民からは不満の声が上がっているとのことで、最近、村を一望する展望台に登れる人数を制限するなどの規制を導入したそうですが、一方で、村の中心から徒歩数分のところに大型駐車場を設けたり、今年になって、大型ホテルがオープンしました。どうしても外国人観光客を増やしたいようです。
白川郷に限らず日本各地の観光地で発生している、いわゆる「観光公害」、「オーバーツーリズム」の問題に取り組む必要が認識され始めました。
ヨーロッパを中心に筆者がこれまで訪れてきた、いなかの美しく静かな町や村と比べると、日本の地方の観光地の昨今の状況には疑問を感じます。
☆フランスでは公共交通機関をわざと不便にしている
「フランスの美しい村」をご存じでしょうか?
1982年に設立された「フランスの美しい村」協会が、人口、景観、土地利用などの厳しい制限を満たした田舎の小さな村を認定し、その観光を促進しようというものです。
そのうちのいくつかを訪れたことがあるのですが、とても観光を促進しようとしているとは思えないくらい不便なところにあります。
ワインの名産地で、中世の建物が多く残り、世界遺産にも登録されているフランスのサンテミリオン(Saint-Emilion)は、近くのフランス第5の都市ボルドーから40kmほどのところにあるのですが、ボルドーからの電車は1日10本弱で、サンテミリオン駅から村まで約2kmは公共交通機関がありません。
ボルドーからサンテミリオンの村の中心まで直行するバスもあるのですが、朝夕限定の1日3~4本だけ。土日祝日はさらに本数が減ります。
(サンテミリオンについては⇒こちらへ)
他の美しい村も状況はほぼ同じです。巡礼の村として有名なコンク(Conques)は平日のみの1日1本しかバス便がありません。
わざと公共交通機関を不便にしているとしか思えません。
不便を忍んで来てくれた人だけに、美しい景観と文化財を見せてあげる、最高の体験をさせてあげるということです。
サンテミリオンもコンクも村の中に大型ホテルはなく、昼間はバスツアーで訪れる観光客がたむろしていても、朝夕は静寂そのもの。みやげ物店はありますが、通りに張り出した看板など、景観を損ねるものは一切ありません。オーバーツーリズムによる村の俗化を避けようフランス人の知恵と言えるでしょう。
白川郷とはあまりに発想が違います。
☆便利さを追求する弊害
観光客に来てほしい一心で、アクセスを便利にし、ホテルやみやげ物店など観光客用の施設を作っていくと、そこの景観はどんどん崩れていったり、そこの住民の平穏な生活が脅かされたり、最悪は、土地の値上がりで元からいた住民が住めなくなったりすることがあります。
日本は外国人観光客の数を増やすことばかりに熱心で、文化や景観を大事にしようとする思いがあまりに希薄です。
☆不便でも来たい外国人観光客は来る
フランスの例でもわかるように、いくら不便でも、その土地の景観、文化、歴史に関心があれば外国人観光客は来ます。
むしろ、ただ有名だからという理由で来る外国人観光客は、その土地の文化へのレスペクトに欠けて、マナーがよろしくないこともあるので、減らしたほうがいいでしょう。
先日、奈良の東大寺大仏殿で、境内入口に座り込んでいるのを係員に注意されている中国人観光客が多数いました。
アクセスを不便にして訪れる人数を制限する
のは、観光公害、オーバーツーリズムへの対策として有効です。
入場料、拝観料を高額にして、ほんとうに観たい人だけが観れるようにする
ことも考えられます。現在、日本の神社仏閣、庭園、古い建築物への入場料・拝観料は、ヨーロッパの同種の文化財と比べて破格の安さです。昨今の円安、インフレでその差は益々広がっています。
文化財を管理している施設の人たち、それがある地方自治体の役人たちにはヘンな思い込みがあるようです。祖先が作り上げた偉大な文化財をできるだけたくさんの人に観てもらいたいというものです。
それは、拝観に訪れる観光客が、同じような文化を共有していることが前提になりますが、昨今のツーリズム全盛の時代にはそぐわない考え方です。
「金持ちだけしか観られないのか」との批判もあるでしょうが、気にする必要はありません。私たちは自由主義経済の世界で生きているので、価格によって需要(入場したい観光客数)をコントロールするのは当然です。どうしても値上げに抵抗あるなら、くじ引きにする手もあります。京都の桂離宮などで一部の寺社では実際にそうしています。
この先の低成長経済を考えると、インバウンド観光を促進しようという政策意図はわかります。しかし一方で、観光公害を抑制し、地域住民の生活と折り合いをつけるに目指すべきは外国人観光客の数でないことを認識すべき時にきています。