ルーマニアのブコヴィナ地方はヨーロッパの秘境と言っていいでしょう。2019年4月、このブコヴィナ地方にある世界遺産の5つの修道院を巡ってきました。
☆ブコヴィナ地方ってどこ?
ブコヴィナ地方はルーマニア北部にあり、一部はウクライナ領になっています。 出典:GoogleMap
のどかな田舎です。
今も馬車が運搬手段として使われているのを見かけます。
このあたりは、ルーマニアの母体のひとつになった、中世のモルドヴァ公国が栄えた地域で、モルドヴァ公国の北部一帯がブコヴィナ地方と呼ばれています。
共産圏にあった期間が長かったこともあって、産業開発は進んでおらず、昔ながらの風景が残っています。
☆ブコヴィナの修道院を巡るわけ
修道院は日本の神社や寺のようなもので、修道士がイエス・キリストの精神に倣って祈りと労働のうちに共同生活をする宗教施設です。ヨーロッパ各地にあるのですが、ブコヴィナ地方の修道院は他とちょっと違います。
修道院の内部装飾に聖人の肖像画や聖書の一場面を題材にしたフレスコ画が描かれるのはよくあるのですが、ブコヴィナの修道院では、内部だけでなく外壁にも描かれています。
聖書を読むことができない農民たちにわかりやすく布教するために描かれたもので、描かれた当初は色鮮やかで輝くばかりであったのでしょうが、長年の風雪による劣化は進んでいます。保存状況は、修道院によって、外壁が面している方向によって、風を遮る防壁の有無によって違います。
モルドヴィツァ修道院の外壁だけは、宗教的な題材だけではなく、戦闘場面が描かれています。兵士の顔や装備は、これが描かれた当時にブコヴィナ地方を脅かしていたトルコ軍のものです。当時の緊迫した社会状況をあらわしています。
スチェヴィツァ(Sucevita)修道院は世界遺産の5つの修道院のなかで最も大きく、かつ、外壁のフレスコ画の保存状態が最も良いと言われています。残念なことに、筆者が訪れた時は大規模メンテナンス中でした。
こうした努力が続けらているおかげで、私たちは中世の文化遺産を目にすることができるわけです。
もうひとつ、ブコヴィナの修道院がユニークなのは、宗教施設だけではなく、要塞でもあったことです。修道院は厚い石塀で囲まれ、敵の侵入を防ぐ砦として機能するように建てられています。
見張りの塔から見る風景はのどかですが、建設当初はここから敵の軍勢が見えたのでしょう。
修道院が造られた16~17世紀、ブコヴィナはトルコなどの他民族に侵略され、町や集落が焼き尽くされることがよくありましたが、そのような時代の文物が後世に受け継がれることがほとんどなく、ブコヴィナの文化を何とか残すことができたのは、要塞のように作られた修道院だけだったのです。
☆ブコヴィナの修道院へのアクセス
起点となる街はスチャヴァ(Suceava)です。ルーマニアの首都ブカレストから列車で約7時間かかります。空路では1時間15分のフライトで1日1~3便です。
ブコヴィナ修道院に電車やバスで行くのは難しい。最もアクセスが良いヴァロネツ修道院でも、最寄りのグラ・フモルルイ駅から約5kmあります。修道院までのミニバスが運行されているところもありますが、運行頻度は多くありません。
したがって、ブコヴィナ修道院巡りにはレンタカーか、スチャヴァ発のツアーを利用するのがいいでしょう。筆者が訪れたのはオフシーズンで、ツアーの最小催行人数が集まらなかったので、タクシーを借り切って5つの修道院を巡りました。約7時間で80€(≒¥10,000)でした。
スチャヴァを出発するとすぐに緑の丘をアップダウンするのどがな道が続きます。
タクシーのドライバーさんは観光ガイドはしてくれませんが、世間話の中で今のブコヴィナ地方の状況をいろいろ聞くことができました。
修道院に到着すると、タクシーのドライバーさんと待ち合わせ場所と時刻を決めて、その間に修道院を見学しました。
秘境と言っても、人里離れて周囲に何もないところではなく、数分歩けば飲み物やスナック類が買えるお店がある修道院もあります。敷地内にヨーロッパでは珍しい飲み物の自販機がある修道院もあります。しかし、ランチが食べられる飲食店はどこも近くにはありませんでした。
ツアーで訪れる際にはランチに寄ってくれるか事前に確認し、ランチタイムが設けられていない場合は、軽食類を持っていったほうがいいでしょう。
ヨーロッパの中でも日本人があまり行かないところを訪ね歩くのが大好きな筆者でも、ブコヴィナの修道院はアクセスが難しいところでした。しかし、行ってよかった!
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みなさん、良い旅を!