ロシアワールドカップ観戦記

盛況のうちに幕を閉じた2018年、サッカー・ロシアワールドカップ。

ワールドカップは最高水準のサッカーを楽しめるだけでなく、世界各国から訪れるサッカーファンとも交流できる魅力的なイベントです。その国を肌感覚で知ることもできます。

筆者は4年ごとに居ても立ってもいられなくなり、ロシアワールドカップでは4都市を訪れ、4試合を観てきました。

6/30カザン (R16) フランスvsアルゼンチン
7/1モスクワ (R16) スペインvsロシア
7/3サンクトペテルブルク (R16) スイスvsスウェーデン
7/7ソチ (準々決勝) ロシアvsクロアチア

ワールドカップ開催中のロシアがどんな様子だったのかを筆者の視点でご紹介します。

☆サッカー・ワールドカップはお祭りです

サッカーのワールドカップは一種のお祭りです。スタジアムの席に座ってサッカー観戦するだけでなく、その前後の時間、開催都市の雰囲気も心浮き立つ楽しさです。閉ざされた官憲国家というイメージの強いロシアでも例外ではありませんでした。

スペインvsロシア戦の2時間前のスタジアム前の様子。ファンたちがチャントを歌ったりして友好ムードでした。Russiaお祭りムード1

ロシアvsクロアチア戦の試合前には、スタジアム前で民俗音楽の演奏が行われていました。Russiaお祭りムード2

開催都市は歓迎ムードいっぱいでした。 Russia歓迎

ワールドカップ史上最弱のホスト国と言われて、国民の期待が高くなかったロシア代表ですが、勝ち進むにつれて、ロシア人たちのボルテージは上がりました。Russiaロシア戦

ロシアがスペインに勝った夜、モスクワ中心部の噴水に飛び込むロシア人たち。Russia噴水に飛び込むロシア人

 ☆スタジアム内の様子

ピッチまでの距離を感じさせない、すばらしいスタジアムばかりでした。陸上トラックがないのがいいですね。

スタンドでは、応援するチームのチャンスの場面では立ち上がる観客が多く、こちらもそれに合わせて立ち上がります。Russia立ち上がるファン

アルゼンチンの同点ゴールの場面では、あちらこちらからビールの噴水が上がりました。喜びのあまり、飲みかけを周囲にぶちまけるのです。

案内係の人たちはカタコト英語でしたが、みなさん親切で、マナーの良くない人に注意するなど、観客が快適に観戦できるように気を配っていました。

場内ではお酒も飲めました。ビールは大きなカップにつがれ、ソフトドリンク類はキャップを抜いたペットボトル、大きなカップの提供でした。Russiaビール

☆ロシアという国

いまさらながらですが、ロシアは広い。
ロシアワールドカップの10の試合開催都市はヨーロッパ側に寄っていたとはいえ、都市間の距離は、電車やバスで簡単に移動できるものではありませんでした。Russia開催都市地図

(出典:FIFA)

例えば、首都モスクワから最も南に位置するソチ(Sochi)までは約1700kmで、列車で38~41時間です。飛行機で移動するしかなく、2時間20分のフライトでした。

そして、ロシアは個人客が旅しにくい国でもあります。専門の旅行会社を通して、滞在するホテルと現地移動の交通機関を予約して、それらを証明する書類をもらったうえで、大使館に出向いてビザを取得しなければならないという複雑かつ時間を要する手続きが必要です。

ところが・・・・・

☆ロシアワールドカップ・チケットとFAN ID

ワールドカップ期間中はこの手続きが大幅に簡略化されました。主催元FIFAのWebページでチケットを買うと、ロシア入国と試合観戦には「FAN ID」が必要と案内されます。

テレビで試合をご覧になった方は、スタンドの観客たちがみんな首からこんなものをぶら下げていたことにお気づきでしょう。dav

取得するのはとても簡単で、所定のWebページで氏名、パスポート番号などを入力し、写真をアップロードすると、自宅まで送料無料で送られてきました。

このFAN IDがロシア入国のビザ替わりになるとともに、これをぶら下げていることでロシア滞在中にさまざまな特典が受けられました。試合開催日は試合開催都市でバスや鉄道が無料で、開催都市間を移動する夜行寝台列車にも無料で乗れました。

寝台列車ではビュッフェ車両で軽食がとれ、酒類の販売もあって、長時間乗っていても快適でした。Russia Free Ride

筆者のロシア初日は、夜9時頃にカザン空港に到着でしたが、ボランティアの若者たちが市内までの無料バスの案内をしていました。Russiaカザンのボランティアさん

Russia空港からの送迎

☆異様に明るいおもてなし

スタジアムに着くと若い女性たちがハイタッチでお出迎え。Russiaハイタッチ1

スタジアムだけでなく、無料の夜行列車で到着したホームでも。「モスクワにいらっしゃいー!」Russiaハイタッチ2

開催都市の街中のあちこちにこんなブースやテーブルが設けられ、英語を話せる若者たち(約8割が女性)が、スタジアムへの行き方だけでなく、街の観光案内もしていました。Russia観光案内1

「この近くに大きいスーパーはありませんか」という筆者の質問にも的確に対応してくれました。

駅にもありました。到着した観客にホテルまでの行き方、スタジアムへのアクセスなどを説明していました。dig

ロシアという国のイメージを覆す、至れりつくせりでした。

☆予想以上の厳戒警備

ワールドカップはロシアの国の威信をかけた大イベントですから、厳戒態勢の中で行われることは予想していましたが、想像以上でした。

スタジアム入場の際の手荷物検査とボディーチェックは、今やどこの国のスタジアムでもありますが、開催都市のターミナル駅やすべての地下鉄駅に入るのにも厳格な検査が行われていました。駅舎とホームが分かれている駅では2回ありました。 Russia駅への検問

モスクワの中心「赤の広場」に通じるすべての道でも同様の検問が行われていました。Russia赤の広場への検問

美術館などの主だった観光スポットでも同様でした。かなりの待ち行列ができることもあり、想定通りの時間で行動できないこともありました。

☆ロシアワールドカップの大会運営

開幕戦と決勝戦が行われたモスクワのルジニキスタジアム。日本で言えば国立競技場みたいなところです。レーニン像が観客を出迎えます。Russiaレーニン

ルジニキスタジアムへのアクセスは地下鉄2駅(2線)とバス停1つに限定され、決められた以外の方向に行こうとするとすぐに制止されました。Russiaスタジアムへのアクセス

徒歩でアクセスできる他の駅もあったのですが、駅への入場はできず、スタジアムへの道路は完全に封鎖されていました。試合前後の短時間に大人数の観客を混乱なく移動させるためには、無秩序な人の動きは断固阻止するということです。

スタジアムの周囲の観客の動線を作るために柵を設けることが多いですが、ロシアワールドカップでは人垣を多用していました。これはカザンでの試合後の様子。動線からはみだす観客を警備員が押し留めていました。Russia動線作る人垣

☆言葉は通じたか

事前に聞いていた通り、ロシアでは英語はほとんど通じませんでした。予約サイトで英語対応OKになっている中級ホテルでも、スマホの翻訳ソフトを使った対応をされることがよくありました。

若いボランティアの人たちとは比較的コミュニケーションが取れましたが、人によってはカタコトということもよくありました。

レストラン、みやげもの店など観光客を相手にする人たちは、英単語は聞いて理解できるし、発することもできますが、まとまった文にして意志を伝えられない、こちらが言っている文も理解できないというのが平均的なところでした。

地元客しか行かないスーパーやレストランでは単語すら通じないことがほとんどでした。

ロシアを旅する外国人にとって最大のネックがキリル文字です。かなり心配してましたが、開催都市の公共交通機関はほぼすべて英語が併記されて、英語のアナウンスもがありました。

これはモスクワからサンクトペテルブルクに行く高速列車のチケットですが、ネットの英語ページで予約したためか、ほとんどに英語が併記されていました。Russiaキリル文字

☆物価の高騰はあったか

ワールドカップのような大きなイベントで懸念されるのが、宿泊施設、交通機関の料金高騰です。

筆者は試合のチケットを確保した直後にほぼすべての宿とフライトを押さえましたので、バカ高い料金を支払わずに済みました。

筆者が泊ったモスクワ、サンクトペテルブルク、カザン、ソチは比較的大きな都市で、ホテルは平均で通常料金の2倍程度でした。ロシアには1泊素泊まり1000~2000円のホステルがたくさんあり、大会で値上がりしても数千円で、試合日直前でも空きはありました。

一方、日本代表の試合が行われたサランスクなど、宿泊キャパが多くない地方都市に泊ろうとした人たちは相当苦労したようで、試合後ホテルにたどり着くまでバスで数時間かかった人もいたそうです。

フライトに関しては、モスクワと比較的小さい開催都市を結ぶ料金が試合の2~3か月前から数倍に高騰し、試合に向かうのに最適の時間帯ではそもそも席が取れない状況になっていました。

☆街中、関連グッズだらけ

街中がワールドカップTシャツを着た人であふれていたのは、これまで筆者が出かけたブラジル、ドイツ、日韓大会以上でした。公式ショップやみやげもの店だけでなくいろんなお店がワールドカップ関連グッズを売っていました。

自販機までありました。Russia関連グッズ自販機

とにかく楽しかったロシアワールドカップ現地観戦ですが、ロシアとロシア人に対する見方はかなり変わりました。

☆2022年のカタール大会は

2022年はカタールで異例の冬12月開催です。ロシア大会とは逆に狭い地域での開催になります。スタジアム間の距離は最大で75kmとのことで、1日2試合のはしご観戦もできるようです。どんな大会になるのか楽しみです。