「マケドニア」から「北マケドニア」に国の名前が変わったというニュースを覚えていますか。2019年2月のことです。領土や国境線が変わったわけでもないのに、国の名前が変わるのは珍しいことです。
「北マケドニア」というと、学生時代に世界史を勉強された方は「アレクサンダー大王」の名を思い出されるでしょう。
筆者は2017年5月、この謎めいたマケドニアを観光旅行してきました。
☆マケドニアって、どこにある?
マケドニアは旧ユーゴスラビアが解体してできた国のひとつで、東ヨーロッパの東端、ギリシャの北、ブルガリアの西に位置します。
☆マケドニアと言えばアレクサンダー大王
首都スコピエ(Skopje)の空港に到着すると、いきなりアレクサンダー大王の彫像がお出迎え。空港の名称も「アレクサンダー大王空港」です。
社会主義から脱して、新国家として出発したマケドニアの人たちは、2300年前の世界史上の超有名人を国の象徴にしようとしているのです。
ところが・・・・・
☆じつは、パクリだった!
現在のマケドニアに住んでいる人たちの大部分は、中世に北方から移住してきたスラブ系民族で、紀元前に大帝国を打ち立てたアレクサンダー大王が出た古代マケドニア人の子孫ではありません。古代マケドニアの子孫は国境を接するギリシャ北部に住んでいます。
確かに、旅してみて見かける看板、標識はキリル文字で、地元の人たちが話している言葉は、ロシア語に近い響きがします。
1991年にマケドニアが独立した時に、国号を「マケドニア」とし、国旗に古代マケドニアのものを使ったことに、ギリシャは「歴史の略奪だ」と猛反発しました。それ以来、両国の国名紛争は続いていましたが、2019年2月になって決着したわけです。
☆東西両文明が交差するマケドニア
マケドニアはアレクサンダー大王が築いた大帝国が瓦解した後、長い間、ローマ帝国(後半はビザンチン帝国)、オスマントルコの支配下にあり、キリスト教とイスラム教の2つの文化が交差するところでした。
この2つの文化遺産が同居しているというのがマケドニア観光の魅力になっています。
☆東方正教の文化遺産
中世のマケドニアは、東ローマ(ビザンチン)帝国の支配下にあった時代が長く、同じキリスト教でもカトリックやプロテスタントとはかなり異なった東方正教の文化が育まれました。
今もマケドニア各地に残る教会を訪ねてみると、建物の造り、内部の装飾などに東方正教会の特徴を見ることができます。
信者が集うエリアと聖職者が儀式を行う「至聖所」と呼ばれるエリアを隔てる壁(イコノスタス)が東方正教会の特徴です。イコン(教会史上の出来事を描いた絵)がはめこまれています。
オフリド湖を見下ろす崖の上に建てられた聖ヨハネ・カネオ教会。
修道院内部を飾るフレスコ画。
☆イスラムも
マケドニアは14~19世紀の約500年間、オスマントルコ帝国の支配下にありました。
首都スコピエ旧市街の高台にあるモスク「ムスタファ・バシナ・ジャミーヤ」。いなかでも空に突き出たミナレットをあちこちで見かけます。
今もトルコ系住民が大勢暮らしています。 パン屋のおばさんはトルコの現職大統領に親近感を持っているようでした。
☆彫像だらけの不思議な首都スコピエ
スコピエの街は巨大な彫像だらけ。アレクサンダー大王像と同じ広場だけでもこんなにたくさん。彫像ワンダーランドという趣です。
夜のライトアップがきれいです。
スコピエの詳細は⇒こちらへ
☆社会主義の名残
第二次大戦後の社会主義の時代の名残もマケドニアにはたくさん残っています。無機質でのっぺりした建物、威圧的で巨大な建築物は社会主義時代の特徴です。
これはスコピエの街の中心にあり、今は博物館として使われています。
☆個人で観光旅行しやすい
これといった国際競争力の強い産業のないマケドニアでは観光に力を入れています。
旅するにあたって心配になるキリル文字の表記ですが、街中の標識、看板など、ほとんどはアルファベットが併記されています。観光地の案内には英語の説明書きもあります。
と思ったら、船ではなくホテル&レストランでした。スコピエの真ん中を流れるヴァルダル川にあります。最初からホテル&レストランとして造られたそうで、いかにも観光客ウケ狙いです。
☆なんでも安い北マケドニア
物価が安いのがマケドニアの魅力。
2017年5月時点の価格の例です。
空港から市内へむかうバス(所要約25分):380円
スコピエからオフリドへのバス(所要約3時間):950円
4つ星ホテル(1泊朝食付き):7,000円
スコピエ旧市街の☆☆クラスのホテル素泊まり:3,700円
ペットボトルの水500ml:45円
ちょっとしゃれたレストランでグラスビール330ml :220円
博物館の入場料:250~400円
これは観光客メインのレストランのメニューです。
1マケドニアディナール=2.1円
☆おいしい北マケドニア
食事が安くておいしいのもマケドニアの魅力です。
ケバブの呼び方はいろいろありますが、バルカン半島共通の庶民の味。
マケドニアはワインの名産地でもあります。メジャーブランドにもアレクサンダー大王の名を冠しています。きりっと冷えたリースリングが美味い! バーやレストランで250mlの小瓶で出てきます。300円くらい。
スコピエ旧市街のトルコ系のパン屋さん。 1個15~30円くらい。
☆北マケドニアの大自然
アルバニアとの国境にまたがるオフリド湖は知られざる観光地です。
スヴェティ・ナウムについては⇒こちらへ
☆北マケドニアのリゾート地
首都スコピエからバスで約3時間の湖畔の美しい街、オフリド(Ohurid)。
知る人ぞ知るリゾート地で、夏になると、ヨーロッパ各地からLCC(Wizz Air)に乗って観光客が訪れます。
湖と山の美しい風景の中でのんびり滞在できるための施設は整っています。西ヨーロッパのこのようなリゾート地は、ホテルもレストランも高いのが常ですので、ここの安さはヨーロッパの人たちにとって魅力です。
オフリドについては⇒こちらへ
☆北マケドニアへのアクセス
2017年6月現在、日本からのフライトに接続できる、ヨーロッパのメジャー航空会社でマケドニアに行くには、
・ウィーン経由(オーストリア航空)
・チューリッヒ経由(スイス航空)
・イスタンブール経由(トルコ航空)
で、スコピエまで直行便があります。
その他、LCC(Wizz Air)がヨーロッパの多くの都市(ロンドン、ストックホルムなど)からスコピエとオフリドに直行便を飛ばしていますが、日本からヨーロッパまでのフライトとは別に航空券を購入することになります。
周辺国から陸路バスで行くこともできます。その中で、所要時間が短く、かつ、日本からのアクセスが最も便利なのがブルガリアの首都ソフィア。ソフィアースコピエ間はバスで約4時間半、1日8便(2017年6月現在)あります。
☆おしまいに
長い歴史で東西両文明が交差した名残を観ることができ、物価が安くて、食べ物がおいしく、人は親切。治安は良くて、英語はそこそこ通じるので、観光旅行しやすい。こんな魅力的な北マケドニアに一度、お出かけになってみてはいかがでしょうか。