ヨーロッパのいなかの教会や宮殿で、豪華な内部装飾に囲まれ、おいしいお酒を飲んで、ほろ酔い気分でクラシック音楽を聴く。夏の極楽です。
筆者は2019年7月、オーストリアに出かけました。
夏の間、ヨーロッパ各地で音楽祭が開かれます。音楽の都ウィーン、ザルツブルク音楽祭が有名ですが、超メジャーでお金がかかるところを避けて訪れたのが、オーストリア南部の音楽祭
・ケルンテンの夏
・シュティリアルテ
です。
筆者の旅行記とともに、ヨーロッパのいなかの音楽祭に出かけるコツをご紹介します。
☆ケルンテンの夏
オーストリア南部のケルンテン地方は、南のスロベニア、西のイタリアとの国境の近くにあります。低い山々が連なり、その間に湖が点在する、のどかな景色が広がります。
「ケルンテンの夏(Carinthischer Sommer)」音楽祭は毎年6月下旬から8月下旬にフィーラッハ(Villach)、オシアッハ(Ossiach)とその周辺で開かれる室内楽中心の音楽祭です。(⇒音楽祭HP)
フィーラッハはオーストリア南部では大きな街ですが、そこからバスで40分ほどのオシアッハは湖畔の小さな村です。
筆者はオシアッハの修道院でウィーンアカデミー管弦楽団のコンサートを聴きました。チケットは上から2番目のランクで45€(≒¥5,600)と、公的補助が出ずに高額になりがちな音楽祭としては安いほうです。
修道院は壁に囲まれ、壁には見張りの塔もあります。中世には城塞としての役割もあったのでしょう。
コンサート前には湖畔をお散歩。歩き疲れたら地元産のビールを飲んで、ベンチに座ってのどかな景色を眺めてのんびり。
ようやく日が沈みかける20:00にコンサートは始まりました。
修道院の内部は、こんないなかによくぞここまで!と言いたくなるような絢爛豪華な装飾。
修道院ですからエアコンはなく、観客でいっぱいになるとかなり暑くなります。そのため、上着、ネクタイをしている男性は少なく、もともと軽装の女性ともども格式ばった雰囲気はありませんでした。
コンサートが終わった頃にようやく暗くなり、ひんやりしてきます。
フィーラッハに戻るバスはこの時間にはないので、オシアッハの村のはずれの個人経営のペンションに泊りました。
村の中のホテルは数軒だけですが、アパートメント、キャンプ場もあり、コンサートが長期滞在のメニューのひとつになっているようです。
「友の会」会員限定に開かれる開演前のパーティをのぞいてみると、話されている言葉はドイツ語が中心で、オーストリア国内の人たちが大部分のようでした。ザルツブルク音楽祭のような、いかにも「お上りさん」風の人はほとんどいませんでした。
☆シュティリアルテ音楽祭
シュティリアルテ(Styriarte)音楽祭はオーストリア第二の都市グラーツ(Graz)を中心に6-7月に開かれる音楽祭です。(⇒音楽祭HP)
この30年くらい、グラーツ出身の巨匠指揮者ニコラウス・アーノンクールが主催してきました。
グラーツの宮殿でのピアノトリオのコンサートはアーノンクールの遺影の前で演奏されました。
まず筆者が出かけたのが、グラーツから約30Km離れた郊外のシュタインツ(Steinz)のお城の中の教会でのウィーンコンツェントゥスムジクスのコンサート。アーノンクールが手塩にかけた楽団です。
ネットでチケット(最安席で44€)とともに、音楽祭事務局が用意した往復送迎バスのチケット(13€)も買いました。
お城の脇に広い駐車場があり、客は送迎バスか車での来場でした。
到着するとお城の中庭でワインと軽食のおもてなし。チケット代に込みでした。
サウンドオブミュージックに出てきそうな民族衣装を着た人もいました。
シュタインツ城の教会の内装も豪華でした。最後尾の席でしたが、テレビの中継の照明のおかげで装飾が鮮やかに見えました。
翌日は、グラーツ市内の18世紀に建てられたバロック様式の宮殿(Palais Attems)広間でのピアノトリオのコンサート。開演前のスパークリングワインと軽食も付いて66€(≒¥8,200)でした。
暑いので宮殿の窓は一部開けられ、外から教会の鐘の音、鳥のさえずりが聞こえる中、ほろ酔い気分でハイドンを聴きました。
シュティリアルテ音楽祭の中心になっているグラーツは「グラーツの市街-歴史地区とエッゲンベルク城」として世界遺産に登録されている古い歴史を感じさせる街です。
そこかしこの様々な建築様式の古い建物を見ながらの街歩きが楽しいところです。
☆いなかの音楽祭に出かけるプランニング
魅力いっぱいのいなかの音楽祭ですが、ウィーンなどの大都市やメジャーなザルツブルク音楽祭に出かけるのとは違った難しさがあります。
まず、チケットは音楽祭のHPで簡単に買えます。
問題は、コンサート会場までの足と宿泊場所です。
グラーツのような地域の中核都市なら宿泊施設は豊富にありますが、小さな村では宿泊施設は少ないので、近郊の比較的大きな街から出かけることになります。
ところが、オーストリアに限らずヨーロッパの大部分では、日本のように全国津々浦々まで公共交通機関が充実しているわけではありません。日に数便しかバスがなかったり、土日は運休といったことがよくあります。
事前の調べが重要になります。各都市の観光案内所のHPから地元の公共交通機関のHPへのリンクが貼られていることが多いです。その際は時刻表の運行日には注意してください。
複数人集まればタクシーをチャーターするのもいいでしょう。
音楽祭事務局が送迎バスを用意してくれる場合は早めにおさえましょう。コンサートのチケットよりも先に完売してしまうこともあります。
☆おしまいに
さて、今回、オーストリアのいなかに出かけて思ったのが、現地の人たちの休暇の豊かな使い方です。
大都市から離れた小さな村あるキャンプ場やアパートメントは長期滞在が前提となっています。家族や仲間と訪れ、昼はボート、登山、ランニングなどのアウトドアスポーツを思い思いに楽しみ、バーベキューなどの食事する施設も整っています。そして夜は宮殿や教会でのコンサート。
なんと豊かな夏の休暇の過ごし方でしょうか。夏休みが分散しているので、日本で毎年決まった時期にニュースになる帰省ラッシュや高速道路の渋滞とは無縁です。
日本もこんな国になってほしいと願うばかりですが、そうならないうちは、ちょっとピーク時期をはずして、ヨーロッパのいなかの夏の音楽祭に出かけてみてはいかがでしょうか。